私ども福島銀行は、おかげさまで2022 (令和4)年11月27日に創業100周年を迎えます。
顧みますと、当行は、1922(大正11)年11月に庶民金融を旗印に、現在のいわき市湯本町に湯本信用無尽として創業いたしました。その後、本店を福島市に移転し、1993 (平成5)年には福島市万世町(現在地)に新本店ビルを新築し現在に至っております。創業以来、太平洋戦争や東日本大震災など、幾多の困難を乗越え今があることは、ひとえにお取引先、株主様をはじめとする地域の皆様の温かいご支援の賜であり、役職員一同心よりお礼申し上げます。
併せて、今日の福島銀行構築にご尽力いただきました諸先輩各位にも感謝の意を表します。
私どもは、これからも「福島のために お客さまのために そして未来を育むために」の経営理念のもと、福島の発展に全力で取り組んでまいります。
今後とも、一層のご支援、ご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。
発行日 令和4年8月1日
これまでのご支援に対する感謝の気持ちを、行員ひとり一人の経験を通して1冊の本にまとめました。お読みになった方々に、私たちの「ありがとう」が伝わることを願って、顔の見えるエピソードを綴りました。
冊子については、最寄りの銀行窓口でご確認ください。
数年前、私は渉外を担当し、個人・法人向け営業のために外回りをしていました。当時は、全店の渉外担当者は圧倒的に男性が多く女性は少数でしたから、支店で渉外を担当する女性は私一人でした。
長年お取引がある個人のお客様からは、親しみやすいと言っていただけることも多く、歓迎していただきました。しかし、法人のお客様からすると〝女性担当者〟というのは抵抗があるようで、具体的な提案や相談に至るまでには時間がかかりました。私自身、20代半ばで知識も乏しく、お客様から信頼されるのは難しいと考えていました。
しかし、担当者として任された以上、満足していただける提案をしたいという思いもあり、自分なりに努力をしようと考えました。お客様の業種、会社の概要、社長・経理担当者などの趣味や好みなどを調べ、自分なりにお客様情報をノートにまとめることにしたのです。
すると、訪問しても何を話していいか分からなかった頃とは異なり、業界のことや世間話などをスムーズに話せるようになりました。ある法人の社長からは、「女性目線での気付きで提案してくれるから、新鮮でいいね!」と言っていただきました。
その後は、お客様のニーズに合わせて、どのような相談にも対応しました。不動産や新電力、結婚相談などなど……。「とりあえず瀧口さんに相談してみよう」と言っていただくことが増え、信頼関係が築かれたことを実感できました。
「女性だから……」とマイナスに捉えるのではなく「女性だからこそ!」とプラスに考えるようになり、前向きな気持ちで仕事に取り組みました。未熟な私でしたが、様々なお客様からたくさんのことを教えていただき、銀行員としての今日があるのだと思います。雨が降ろうと、風が吹こうと、雪の日であっても、自転車で渉外活動をした日々は、私を成長させた貴重な宝物です。
入行して8年目、銀行業務にも自信がついてきた頃、初めて本部配属となり、創業支援を担当することになりました。配属時は「今まで様々なお客様に融資をしてきた経験があり、創業支援も問題無く対応できるだろう。」と思っていました。しかし実態は、お客様や営業店から、セミナーや創業に関する問い合わせがあってもすぐには答えられないことも多く、実力不足を感じ、自信を失いかけていました。
その頃、あるお客様から創業したいという相談を受けました。そのお客様は地元出身ではなく、新たに始める事業経験も少なく、自己資金もなく、担保も無いことから、融資が難しいお客様だったと思います。
しかし、「昔からの夢を達成したい。」というお客様の熱い思いに感銘を受け、創業に活用できる制度資金を調べて提案したり、事業計画書を一緒に考えたり、本気で取り組んだ結果、無事に創業することができたのです。
そのお客様は、「ふくしまベンチャーアワード」の受賞や各種メディアに掲載されるなど、事業は順調に推移し、現在もご活躍されています。その方とあるイベントでお会いした際に、「あなたに創業支援を手伝っていただいたおかげで創業することができました。」と言っていただき、大変感動しました。これからも、その言葉を忘れず、新たに創業したいお客様の相談があった際は、お客様の夢の実現に向けて全力でサポートしていきます。誰かの役に立ったという喜びは、無上の喜びです。
銀行の仕事をしていると、お客様の喜びや悲しみなど、その方の人生にとって大きな出来事に触れることが多く、そのたびに、担当者として、人として、寄り添った対応ができているかを考えます。
そのなかでも特に思い出深いのは、X支店の女性のお客様です。転勤して早々、「歳だからあまり取引できないよ。」、「そういう商品はもういいから。」とお断りを受けていました。しかし、ことあるごとにお邪魔しては、「お役に立てることがあればいつでも、何でもおっしゃってください。」と必ずお声がけしていました。そうするうちに、お客様と徐々に打ち解けていきました。
数カ月過ぎた頃でした。大きな台風が県内を直撃し、担当地区でも甚大な水害が発生しました。翌日の朝、ニュース映像が担当地区の浸水の様子を伝えていました。瞬時にそのお客様のことを思い出し、電話をしました。すると、自宅の2階にいて無事だったが、1階部分が浸水してしまったとのことでした。
翌日から、お客様の状況等を確認し、お声がけしながら訪問しました。いつもの見慣れた光景が大きく変わってしまい、茫然としたしことを今でもありありと思い出します。そんなとき、そのお客様から、電話で「冷蔵庫や大きなものを運び出したいが大仕事なので手伝ってほしい。」とのSOS がありました。すぐさま後輩と二人で向かい、大きなものを運びだしました。するとお客様が「銀行の仕事じゃないのにごめんなさい。とても助かりました。ありがとう。」とおっしゃいました。大変な時に頼りにしていただき、私に声をかけていただけたことは、担当者としてというより、人としてほんの少しでも誰かの力になれたという喜びでした。
水害の1年半後、私は転勤となりました。お客様に転任のご挨拶をすると少し寂しそうな顔をされたので「いつでもお声がけください。」とお伝えし、異動先の支店へと向かいました。着任してから数日後、そのお客様からお手紙をいただきました。そこには、初めて引き継いだときのことや、お話させていただいたこと、水害の際にお手伝いできたことへのお礼などが書いてありました。
高齢社会はますます加速し、単身高齢者が増加します。災害も頻発しています。銀行員としての触れ合いをきっかけに、お客様の大変なときにほんの少しでもお役に立てることがないか考え、寄り添うことができる人間でありたいと思います。
入行4年目の11月、岡部支店は地域特化店になりました。午前は窓口業務、午後は渉外活動。それまで1日渉外活動していた私にとっては慣れないリズムとなりバタバタした日々が続きました。
そんなある日、訪問先のお客様から「どうだい?慣れたかい?」と聞かれ、「忙しいです。正直3人は大変です。まだ慣れません。」と思わず正直な思いをお客様に吐き出してしまいました。
「そうだよね、慣れないと思うし大変だよね。でも私みたいに八巻さんとお話しするのを楽しみに待っている人もいるし、来てくれて助かる人もたくさんいると思うから無理しない程度に頑張ってほしいな」と言われました。私のことを必要としてくれる人がいるのだと心の中のもやもやが吹き飛びました。
最初は何もかも大変でしたが、ご来店されたお客様、訪問したお客様、どちらにも接することができ、お話しするなかでお客様の思いや不安を聞くことができる環境にあるのだと前向きに考えることができました。
忙しくても窓口では「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」渉外では「こんにちは、お変わりありませんか?」と明るく元気にお客様と接し、お客様に寄り添っていこうと思います。
入行して2年目、私がいわきの植田支店に所属していたときの出来事です。当時、私は個人渉外を担当していましたが、まだ渉外の経験も浅く、ガムシャラに営業活動をしていました。そのような日々のなかで、初めて住宅ローンの借り換えの案件を受け付けました。住宅ローンを扱うのは初めてでしたから、何度も何度もお客様宅に通い、打ち合わせを行いました。徴求不備等もあり、お客様に申し訳ないと思うこともありました。ですが、対応してくださる奥様は、いつも嫌な顔一つせず私を迎え入れて下さいました。お客様ご夫妻の協力をいただき、無事住宅ローンを実行することができました。
その実行から数か月後のことです。今度は、お客様の奥様から教育ローンの相談がありました。早速訪問し、教育ローンの内容を説明したものの、これも初めてのことで満足に説明もできず、奥様からいただいた疑問点を調べなおし再度訪問して回答する約束をしました。しかし、私はその約束を失念してしまったのです。その数日後支店長充てに苦情の連絡が入りました。支店長から応接室に呼ばれ、「絶対に怒られる!」とびくびくしながら支店長と面談しました。ところが、支店長からの話は意外なものでした。「お客様は土屋君のことを褒めていたぞ。自分の息子とかぶってうつったのかもしれない。でも今回約束を破られて悲しかった。」と言われたとのことでした。
面談後お客様宅に謝罪に行きました。お客様から「あなたが入ったばかりの子で仕事が慣れてないのはすぐわかりました。でも、あなたのその一生懸命な姿勢が好ましく見えて、この担当者なら信頼がおけると思って教育ローンの話をしたの。今回こんなことがあって、がっかりしたし、裏切られたような気持ちにもなった。でも、あなたのひたむきさを信じたい。だからお客さんとの約束を忘れるのはこれを最後にしてね。」とおっしゃって下さいました。
その言葉を聞き、私は大変申し訳ない気持ちになりました。そして、二度とこんな思いをお客様にさせないと決意しました。現在の渉外活動においても、「お客様は見ている」「お客様を裏切らない」「ひたむきに仕事をする」という、お客様から教えていただいたことを大切に仕事と向き合っています。
私にとって、忘れられないお客様との出会いは、相続に関する相談がきっかけでした。その方は、長年連れ添った夫を亡くされ、ご長男家族とご一緒に来店されました。当時の私は、丁寧に説明しようという意識だけで対応するのが精一杯でしたが、ご家族からは、伴侶を亡くしたお母様に寄り添って、相続に関する一つ一つの手続きを全員で解決していこうとする温かい家族という好印象を受けました。
その後、たびたび来店してくださるお客様とは、話題も広がるようになり、「他の銀行からの連絡は何もない。」ということをお聞きしました。お客様はどんなときも様々な角度から、大切な財産を預ける私たち銀行員を見ていらっしゃることを改めて実感しました。その実感をさらに強めたのは、ご自宅にお邪魔したときでした。
ご自宅の仏壇には、たくさんの花が供えられ、写真もたくさん飾られ、故人のお人柄が偲ばれました。そして、私はお客様から、それまでの福島銀行の担当者の名刺を見せていただいたのです。厚さが3センチほどある名刺の束を1枚1枚手に取ると、名前を読みながら「この方は、若いけれどいつも一生懸命で……」とか「この人は、私の手作りの漬物をいつも美味しいと喜んでくださった。」などと、一人一人との思い出を話してくださったのです。そして、私の名刺を一番上に重ね、大切にしまってくださいました。
これまで仕事をしてきて、私が最初の担当者となるお客様もいらっしゃいますが、何代にもわたる担当者が丁寧に親切に対応してきた歴史があったうえで取引が続いているお客様もたくさんいらっしゃることを実感しました。百年という歴史には、多くの人の働きや支えがあります。先輩や同僚、そしてこのことを教えてくださったお客様に感謝しています。
ありがとうございました。